予防の話
2018/10/26

噛むことの大切さ

子供の頃、食事の際に親から「囗に食べ物を入れたら30回噛みなさい」といわれたことはありませんか?
私たちはとくに意識することなく、毎日歯で食べ物を噛んでいます。
噛むことはもちろん食べ物を細かく砕くための行為ですが、単にそれだけにとどまらず、噛むこと自体が身体の健康に豊かな食文化のために役立っているのです。

物を食べる際によく噛むことは、食べ物を味わうことや、胃から腸にかけての消化器系の負担を少なくするためにも大切なことです。
日常生活においては、噛むことに慣れてしまい「噛むことは当たり前のこと」と誰もが思っています。
しかし何らかの理由で歯がなくなると、物が噛めなくなり、その結果、食べ物はおいしいと感じにくくなり、胃腸への負担も大きくなってしまいます。
また、血液の循環も悪くなってしまい、脳の働きが鈍くなります。

「噛む」ことの効果

●認知症にならないためによく噛む

例として、よくあげられるのに「認知症」があります。
認知症にかかっている人をみますと、女性より男性に多く、特徴として「総入れ歯」「無趣味」な人が約半数あったというデータがあります。
これは男性は女性と比較して社交性が乏しいためで、特に定年退職などで会社を辞めると、近所との付き合いが減り孤独になることが多くなるため、という考え方もあります。
さらに「総入れ歯」が物を噛むためによく機能しないと、食べ物を十分に咀嚼(そしゃく)することができません。
そのため、血液循環が悪くなり脳への刺激が働かなくなります。
また栄養が十分に摂れないために活力がつかず、精神的にも無気力になりがちになります。
社交性と関連しますが、趣味のないことは、何もすることがなく日中テレビなどを受動的にみていることになります。
すると頭を働かせないだけでなく、身体の運動もしないため足腰が萎えてきます。

●プロポーションのために噛む

グルメなアメリカにいる、時計屋さんのフレッチャーさんは大変太っていた人でした。
ですが、毎日よく噛んで食べることにより体重が減少し、体調がとても良くなったそうです。

一般的には、痩せるためにエステやフィットネスクラブに通うことが盛んに行われていますが、わざわざ痩身法などをしなくても十分に時間をかけて噛むことにより、ダイエットもできることになります。
日本も、世界の中で豊かな国といわれる現在、”早食いも芸のうち”などといわずに、ゆっくりよく噛んで食生活を楽しみましょう。

●噛んで食文化を享受する

物をよく噛まないということは、単に「食べ物の味がわからない」「おいしく食べられない」というだけでなく、全身的にさまざまな病気の誘因となります。
逆にいえば、歯があってよく噛めるということは、健康で文化的な生活が送れるということにもなるでしょう。
プロ野球・相撲・プロレスなどのスポーツ選手が、瞬間的に力を出すために歯を食いしばったときの力は最大90キログラムであるといわれています。
しかしこれは上顎と下顎の歯があってのことで、歯がない場合は咬合力が半分以下に低下してしまいます。

これからの高齢社会に向けて、単に生きるのではなく、食文化を享受しQuality of lifeを楽しむために、よく噛んで食べ物をおいしく食べることが大切です。

引用元:
お口の健康ア・ラ・カルト 鴨井久一著 医歯薬出版刊