お口の中の話
2018/08/24

遺伝とむし歯

歯が悪いのは親のせい?

よく、「自分の歯が悪いのは両親が悪かったから」などといいますが、むし歯のなりやすさは本当に遺伝するのでしょうか?
次のページの表はウエストン・A・プライスが二十世紀初期に行った調査結果です。彼は世界各地の近代文明から影響を受けていなかった民族を実地調査し、それらの民族で従来の食生活を持続している集団を未開集団、先進国から流入した食物を取り入れている集団を近代化集団とし、集団間のむし歯の罹患率や歯列不正、歯周病などの口腔環境の違いを研究しました。両集団間に遺伝因子の違いはないにもかかわらず、オーストラリア原住民の未開集団にはむし歯が全くなかったのに、近代化集団には7割にむし歯がありました。日本人にしても、私たちより、昔の人たちのほうがずっと、虫歯は少なかったのです。


むし歯や歯周病を経験したことがなかったため、その備えが全くなく、歯磨きなど口腔清掃する習慣が欠如していた人たちが、急に口腔環境を破壊する食生活をしてしまったからではないかといわれています。
逆に現代人も、この未開集団のような食生活をすれば歯磨きをしないでも虫歯にならないのでしょうか。その答えはNOです。というより、現代人のあご骨と歯の形態では、未開集団の食生活には耐えられません。強度的に無理と思われます。煮たもの、焼いたものなどの加工食品でなければ食べられない現代人には、歯ブラシは必需品なのです。
同じ環境におかれれば、遺伝子が大きく影響しますが、環境のほうが問題です。親にむし歯が少なければ、子供も少ない確率が高くなりますが、むし歯で苦労した親が子供を育てる時、この子にむし歯の煩わしさを経験させたくないと努力するとむし歯にならず、逆にむし歯で苦労しなかった母親の子供がむし歯で悩んでいる例はよくあります。家族にむし歯が少なくても基本的な注意は守ってください。また、むし歯が多い家系でも、注意を怠らなければ健康な歯でいられます。

 

引用元:
歯のトラブル知らずになる本 中村輝夫著 山海堂刊